独断と偏見の感想を述べるメンタル本レビュー。今回紹介するのはうつ病エッセイ本としては世間で一番有名といえる「ツレがうつになりまして。」
独特でコミカルな絵柄の細川貂々さんが描く、うつ病の夫と生活を描いたマンガです。
こちらのマンガは映画化、TVドラマ化されたことがあるため非常に多くの人の目にとまっており、明らかに『うつ病』の社会的認知度を高めてくれています。
ツレがうつになりましての感想
うつ病患者は見ないほうがいい。
家族は見たほうがいい。
主人公はうつ病ではない客観的に見たうつ病患者の観察日記
この漫画においてうつ病になったのは作者ではなく、作者の夫です。(夫=ツレ)
そのためこのマンガはうつ病当事者が自分の体験を書いたわけではなく、家族がうつ病になった人から見た「うつ病の人の観察日記」といったところ。
言い方は悪いですが
『うつ病は他人事』の人が書いているのです。
作者はうつ病の当事者ではありません。
いや奥さんなんだから、他人事じゃないだろ!
とお叱りを受けるかもしれませんが、うつ病はなった人じゃないとあの辛さを正確に知ることはできません。
奥さんであれ他人は他人。
他人の病の辛さを他人がはっきり知ることはできない以上、どうしても他人事のような表現が多く、うつ病を経験した身としては「そんな無責任な言い方はねえだろ・・・」って感じるところが多々あります。
作者が当事者でありうつ病を主観的に描いたマンガは多くありますが、あくまでこれはうつ病ではない人が書いているため客観的な視点に終始しています。
考え方によってはうつ病になった自分は他者からこのように見られているんだと他人視点の考えをよく知ることができますが、うつ病当事者(ツレ)が語る主観的なうつ病の話はほとんどありません。
あくまでうつ病を見た作者(ツレの嫁)の話なのです。
ポイント
うつ病になったのはあくまで作者の夫(ツレ)
作者自身はうつ病ではないので、うつ病当事者の苦しみは直接的にはわからない。
あくまで知ろうと、理解しようとする立場
家族がうつ病になった人に”見せたい本”
マンガの内容はバリバリのサラリーマンだった”ツレ”がうつ病になり、別人のように落ち込み塞ぎ込んでどう対応していいかわからない作者の困惑、うつ病の家族に対する間違った対応、うつ病の知識をイチから学ぶことが描かれています。
そのためうつ病当事者としてはあまり価値がなくとも、うつ病の家族がうつ病を理解する上での入門本としては非常に価値があります。
うつ病を理解する入門本
うつ病当事者が読むにはあまり適していない
うつ病の家族などには「見せたい本」「見てほしい本」である一方、うつ病当事者にはあまりお薦めはできません。
なぜかというとうつ病であるツレがとても眩しい存在であるから・・・
この本のAmazonレビューが非常に参考になりますが、このうつ病当事者(ツレ)は恵まれています。
元々外資系企業でバリバリ働いていたエリートサラリーマンで結婚もでき、大雑把ではあるものの日々ちゃんとサポートしてくれる作者(妻)がおり、その作者の縁によっていろんなお医者さんやうつ病仲間とつながることができているのです。
もちろん当事者(ツレ)の努力の積み重ねでもありますが、うつ病で苦しんでいる人はこんなに恵まれていないんですよね。。。(恵まれていたらうつ病にはほとんどならない)
うつ病当事者がこの本を読むと多少なりとも参考になる点はあるものの、恵まれているツレの環境と自分を対比して気分が悪くなってしまうことがあるでしょう。
こんなレビューもあります。
まず一番強く思ったこととしては、この本は、鬱病の「患者さん」を「知る」または「理解する」ための本だという事です。裏を返せば、まさに今、鬱病に苦しんでいる当人には必ずしも見せる、あるいは読むべきではない。
中略
サバサバした作者にイラつくかも
この作者はうつ病に対して最初は無知でした。
そのためうつ病になったツレとの生活を経て知識と経験を積み上げていくわけですので、最初はうつ病患者に対して怒鳴ったり、嫌味を言ったり、理解しようとしなかったり”やってはいけない行為”をやりまくっています。
うつ病患者にやってはいけない行為
- 嫌味を言ってプレッシャーをかける
- できない行為に対して怒る(怒鳴る
- 相手の心情を理解しようとしない
うつ病をよく知らない人へわかりやすく説明するための表現、もしくは無知であった作者がどのような経験からやってはいけない行為を学んでいったかを描いているのかもしれませんが、これはうつ病を経験した当事者にとっては非情に嫌な行為なんですね。
人にとっては漫画でもこういった無神経な振る舞いに嫌気が指す人もいるでしょうし、なにより作者は自分がやった行為に対して全然反省しないサバサバした性格なので、見ていてイライラする方が多いのではないでしょうか。
見るべき作品より、見せるべき作品
そんな感じでこの作品はうつ病当事者ではなく、その家族の視点で描かれたものです。
うつ病当事者にとっては客観的なものであり、病気の治し方や生活の改善方法については参考になる点は正直少ないですね。
その代わり、客観的にどう見られているか、うつ病は他者にはどう写っているかを表現した点では良作であり、見るべき作品というよりうつ病を知ってもらうための”見せるべき作品”とった立ち位置になっています。
うつ病患者にとってはあまり評判はよろしくありませんが、うつ病患者と「接する」「寄り添う」家族や親類・友人にとっては非常に参考になる良作です。
ポイント
メディアミック化された作品
前述の通りこの作品はエッセイ漫画が評判になり、映画化やドラマ化されています。
2009年5月29日、6月5・12日の全3回されたNHK総合の「金曜ドラマ」
そして2011年10月8日から東映系で公開の劇場版。
あらすじ
結婚5年目でありながら、ツレの変化にまったく気付かなかった妻・晴子(宮あおい)は、妻としての自分を反省する一方、うつ病の原因が会社にあったことからツレに退職を迫る。会社を辞めたツレは除々に体調を回復させていくが…。
うつ病を商売にするな!というお叱りの声や不快感を感じる人もいたようですが、私個人としてはうつ病の社会的認知度を高めた上に、今まで声を上げられなかった潜在的うつ病患者とその家族が声を上げられるようになってきたので、これはこれで非常によい試みとは思います。
半沢直樹などのできる男のイメージが強い堺雅人さんが”ツレ”役を演じており、なかなか良い演技をされています。有名な役者さんを使うことで、役者目当てで見た人が「うつ病」を知り、多少なりとも理解してくれるという視点では、うつ病の認知度に大きく貢献してくれたでしょう。
実は、”その後”の作品が2つもある
「その後」の話も作品化されている
ドラマ化や映画化されただけでなく、「その後」の話もエッセイ漫画となっています。
- その後のツレがうつのなりまして。
- 7年目のツレがうつになりまして。
この頃になると作者もうつ病患者への理解度が増しているため、当事者が嫌がることや避けるべきことを熟知した方となっています。前作と比べてそれほど嫌に映るところは少ないですね。その分参考になる部分も減っていますが・・・。
「その後のツレがうつになりまして。」はほぼツレが回復して終わる寛解おめでとう完結編といったもの。
「7年目のツレがうつになりまして。」はツレが回復した後の後日談になっており、震災移住したとか、当時かけなかったこんなエピソードがあるといった補間的なものに終始しています。
amazonレビュー
引用